「天気の子」における3400円の話

※内容に触れます、ネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

 

君の名は。」が大ヒットしたので、話の細けえとこは絵が綺麗だからええか!で許してくれる客(ニアバイ信者)の比率が急激に下がり、恐らくプレッシャーが半端じゃなかった新海監督。今回の「天気の子」はマス層受け要素を散りばめつつ作家性を出せて本当に良かったと思う。

今作が「君の名は。」の変奏ってかB面なのはラストでの主人公の選択まで観ればまあ大体わかる。

悪い言い方をすると、選択「だけ」観ればその辺りは理解出来てしまうので、気を付けないと誤読しますね。前よりシンプルな脚本って言ってる層はヒロイン側の物語全く読めてないので是非もう一度見た方がいいです。かく言う私も拾いきれてない部分多々ありそうなので、ノベライズ読んでもう一度観に行きます。

 

 

以下、物語の理解に必要と思われる内容をメモ

●帆高から見た疑似家族は「須賀(父)夏美(姉)帆高(子)」なんだけど、陽菜から見た疑似家族は陽菜(母)帆高(兄)凪(子)。

子どもとして正しく扱われる帆高が、陽菜が担わされている役割を正しく理解できるのは、事実上年齢のくだりから。

ここを理解する事で、陽菜が担わされた役割(巫女)が女性が担わされるロール(母、etc)の比喩であることが観客にも分かる。

●論理が急に飛躍しているか? 陽菜の境遇を時系列順に並べると

・母が亡くなり年齢を誤魔化してマックでバイト

・マックをクビになり、風俗に応募

・帆高に救われ、晴れ女(巫女)として生計を立てる。

ちなみに昔、作中の表現で言う所の天気が記録されなかった時代、娼婦と巫女が兼ねられていた説ってあるよね。それを踏まえずとも身請け人が代わっただけで陽菜の状況は救済されていない。シングルマザーと陽菜の苦悩は限りなく近いところにあって、「巫女が役割に耐えきれず人柱になる」が何の比喩かってのが要は陽菜と天気が繋がった、と言うことは当然天気自体を陽菜の心象風景と読んでOKとなる。(ベタ過ぎてやりたくない読みだが)。

「雨が毎日振り続ける中、自らの意思で晴らすことを強いられる」役割の残酷さが、観客にもようやく分かりはじめる。3400円払うから晴れにしてくれは、親が死んでても生活保護払うからちゃんと笑えよ、という世間の期待。

●ちなみに帆高が選ぶ指輪は確か3400円じゃなかったっけ?ノベライズにも記載が無さそうなので、再視聴時はここを一番見返したい。

店員とのやり取りで「値段じゃない」とフォローされますが、指輪を渡す前後で陽菜が帆高へ晴れてほしいか確認するシーンをみるに、指輪が落ちるのは拒否の暗喩であり、値段による意味が勝ってしまった、という話なんですかね。

●帆高や須賀が警察を払う場面が、狂った世界からの解放と捉えた時、警察官や体制側が全員男性で、帆高を助けに来た凪が女装をしているのはフェミニストにこそ受けそう。熟読すればするほど、女性への配慮(あるいは無理解)は出てくるかも。

●なら歳下と分かった瞬間呼び捨てすんなよ、のシーンを監督の配慮の無さと捉えるか、帆高の役割であった子供からの成長と受け止めるかは観客の立場によって別れるか。

●まあ色々ありますが、陽菜が欲しかったセリフ「晴れなくてもいい」を帆高がキチンと伝えられて良かったですね。彼女は辛いのだから無理に笑わなくともいい。現代的な価値観にも配慮されたオチだったと思います。